内分泌疾患専門病院
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甲状腺手術の合併症 (1)

甲状腺手術の合併症

今回は当院で行っている甲状腺手術後の合併症のなかでも反回神経麻痺についてお伝えします。

反回神経は声帯を動かして声をだす働きをしているとても重要な神経です。甲状腺の後ろには気管があり,気管の横に細い神経があります。これが反回神経です。この神経は迷走神経という太い神経として脳から左右の総頚動脈に沿って下行し,胸の中に入ってから左右それぞれ一本ずつ枝分かれして上方へ再び返って来るので”反回”神経と呼ばれます。反回神経は気管の横を上行し,甲状腺の裏を通って最終的に声帯につながっています。

手術によって左右どちらか一方の反回神経が障害をうけると,声がかすれます。また,ものを飲み込むときにむせるようになります。これが反回神経麻痺の症状です。声のかすれは,以前の自分の声とはまったく違う声になることが多く,大きな声をだそうとしても太い声が出ずに,ひそひそ話をしているときのような声になります。ときにハスキーな声やガラガラ声に変わってしまうこともあり,とくに電話などの時には内容が相手に伝わりづらくなったりもします。もし左右両方の反回神経が同時に麻痺を起こした場合は声がほとんど出ず,呼吸もできない状態になりますので,気管切開という処置が必要になります。

反回神経の太さは1~2mmと細く,手術操作で神経を直接触ることにより容易に麻痺がおこりやすいとても繊細な神経です。野口病院のバセドウ病の手術では,反回神経が走っている部位をほとんど触ることがないため,反回神経を麻痺させる可能性は極めて低いと言えます。それでも神経に影響がでる可能性はゼロではありません。当院のバセドウ病手術後の反回神経麻痺の発生率は約1%で、そのうち90%以上は一過性の(一時的な)麻痺で半年以内に自然に回復しています。

つづく

次回は「甲状腺手術の合併症(2)」として副甲状腺機能低下症についてお伝えします。

(野口病院外科 内野眞也)