病理診断科とは【3】 今回は「術中迅速病理診断」についてご紹介します。 術中迅速病理診断(術中迅速診断ともいいます)とは,手術中に採取された検体について,腫瘍なのか腫瘍ではないのか,腫瘍だとすれば良性か悪性か,転移や取り残しがないかどうかなどを調べることを目的に,限られた時間で行われる病理診断です。この診断結果をもとに,切除の範囲を決めたり,より適切な手術方法を選択したりすることができます。 通常,手術検体から標本を作成するには数日間かかりますが,術中迅速病理診断では液体窒素で急速に凍結させた組織片を専用機器で3-4μm程度の薄さに切って染色し,診断結果が20分程で手術中の外科医に報告されます。 術中迅速病理診断で得られる結果はあくまでも簡易的に作成された標本によるものであるため,後日通常の方法で作られた標本と比較検討され、診断が確定します。 当院では,病理診断を専門とする病理医が常勤医師として在籍しているため,この術中迅速病理診断を必要に応じて行うことが可能となっています。 標本の作製は病理診断科の検査技師が行います。正確な病理診断のためには,短時間で質の高い標本を作製することが求められます。 野口病院では甲状腺だけでなく,副甲状腺の手術も多く行っています。副甲状腺の手術でも術中迅速病理診断は重要な役割を果たします。 副甲状腺は肉眼ではそれとわかりにくい臓器であるため,副甲状腺として摘出された組織が間違いなく副甲状腺であるかを確認する必要があります。 また副甲状腺腫瘍の場合は術前の穿刺吸引細胞診検査は行わないため,最初の病理診断として術中迅速病理診断を必ず実施します。 (野口病院病理診断科)
医療統計ってどんなこと? 統計解析が今や幅広い場面で活用されていることはご存じかと思います。医学・医療の分野でも,疾病統計,がん登録,臨床研究などさまざまな用途で統計解析が行われており,診断や治療方針の決定などに活かされています。 医療統計は,医療現場のデータを活用して病気の診断・予測・治療効果の検証を行い,問題を解決することを目的としたものです。 統計としてデータを利用するためには,情報の蓄積・整理を日々行っていく必要があります。野口病院の診療記録管理室では,国内で標準的に用いられているコード体系を用いてデータを分類し,あとから利用しやすいよう情報を管理しています。当院の診療実績も診療記録管理室でまとめています。また,以下のがん登録事業も行っています。 院内がん登録 野口病院では1946年(昭和21年)から甲状腺がんの院内登録を開始し,現在までに2万件以上が登録されています。そのおよそ9割以上を占める乳頭癌については,腫瘍の大きさをはじめさまざまな項目が登録されています。過去の治療の経過や結果を把握しフィードバックすることは医療の質の向上に繋がります。これらのデータを活かしながら,個々の患者さまの病状に応じてよりよい医療を提供できるよう日々努めています。 全国がん登録 全国がん登録は,日本でがんと診断されたすべての人のデータを国でひとつにまとめて集計・分析・管理するために,国が法律を整備し2016年1月に始まりました。 全国に何ヵ所のがん診療連携拠点病院を整備すればよいのか,がんを治療できる医師は何人くらい必要か,どの年代の人にどのようながん検診を実施するのが効果的かといった計画や対策を立てるときにこの登録情報が役立ちます。分析によって得られた最新の統計情報は,国立がん研究センターが運営するがん情報サービス内で随時公開されています。 当院もこの全国がん登録に情報を提供しています。 (野口病院診療記録管理室)
もっと知りたい採血のこと!(2) 当院の外来採血は臨床検査技師が担当しています。 採血の基本技術習得後にスキルアップ研修を重ね採血業務に従事しています。 不安なことやご質問などありましたら採血担当者へご相談ください。 前回に続いて今回も採血の際に患者さんからよく尋ねられる質問にお答えします。 採血前は食事をしないほうがいいですか? 当院での採血は,特別に医師の指示がある場合を除いて食前・食後にかかわらず行っています。遠方から来院される患者さんが空腹で気分不良にならずに済むほかに,食後にお薬を服用している患者さんが多いこと,甲状腺ホルモンが食事の影響を受けない検査項目であることなどがその理由です。 ただし検査項目によっては当日および前日の食事の影響を受けるものがあります。「血糖値」と「中性脂肪」は食事の前後で大きく数値が変化します。血糖値は食後急速に高くなります。中性脂肪の値は徐々に上昇して数時間は高値が続きます。脂質は食後緩やかに吸収されるためです。検査当日だけでなく前日(特に夕食)も脂質の多い食事(うなぎや焼き肉,揚げ物など)は避けたほうがよいでしょう。 空腹時の採血が必要な場合には,食事をとらずに来院するよう事前に医師からお伝えします。指示がない場合は通常通り食事をとっていただいて構いません。 アルコール消毒で皮膚が赤くなります 当院では,採血の際に採血部位をアルコール消毒しています。 採血後に皮膚が赤くなったり痒くなったことがある方は,皮膚消毒に使用したアルコールに反応する体質をもっている可能性があります。このような体質の方はめずらしくありません。当院ではそのような患者さんに対して専用採血台を設けています。アルコールが入っていないクロルヘキシジン消毒液で対応しますので,採血担当者にお伝え下さい。また,止血で使用する絆創膏やテープにかぶれやすい方もいますので,採血後に何か変化があった場合には遠慮なくご相談ください。 採血をすると気分が悪くなります 採血をすると気分が悪くなるという方には,採血室内に設置したベッドで横になった状態のまま採血を実施しています。採血への不安が強いまたは極度に緊張する方はベッドでの採血をおすすめしますので,採血担当者にお申し出ください。 血液が止まりにくいです 血液が止まりにくい方,血液をさらさらにする薬などを内服している方や内出血をし 続きを読む >>
入院中の食事 入院の主な目的は,病気を治すことです。 その手段は手術療法・薬物を内服する治療・抗癌剤の点滴治療・放射線治療などさまざまですが,「入院中の食事」も治療のひとつであると言えます。栄養状態を改善することで手術部位を早く治したり,血糖値を改善したり,血圧を安定させるなどの効果が期待できるからです。身体の状態に合わせて栄養バランスの良い食事をとることは,薬をのむことと同じくらい重要な意味を持っています。 野口病院では,常食・減塩食・糖尿病食・脂質制限食・蛋白制限食など,それぞれの病態に合わせた治療食のほかに「ヨウ素制限食」という放射性ヨウ素内用療法のための特別な食事を提供しています。食事の内容と量は,患者さまひとりひとりの年齢,性別,病気や治療内容などに合わせて医師の指示のもとで決められます。術後や放射線治療,化学療法で食欲がない時や痛みで普通の食事が摂れないという方には,個別に管理栄養士が病室を訪問してその時に食べられるメニューを患者さまと一緒に相談します。アレルギーや信仰,嗜好によって,肉や魚など主要となる栄養素が含まれる食品が食べられない方の別メニューの対応も行っています。 また,献立の一部を選択式にしていて,朝食は米飯食かパン食を,夕食は2種類の主菜のうちどちらかを選択出来ます(検査や治療のために選択できない場合もあります)。 ひと月分の献立を公開していますので,ぜひご覧になってみてください。 病院食は現在改革が進んでいる分野です。「味が薄くてまずい食事」というイメージから「美味しくて体が元気になる食事」へと変化しています。最近健康食に興味がある方が多くなってきています。その期待に添える病院食を目指して,厳選した食材・研究された調理法・衛生管理の徹底につとめています。 (野口病院栄養科管理栄養士)
「野口病院Ensemble(アンサンブル)」 「野口病院NOTE」はこのたび、「野口病院Ensemble(アンサンブル)」と名称を変更いたしました。 各パートの音が重なって豊かなアンサンブルを作るように,当院のさまざまな職種のスタッフが協力して皆さまにお伝えしたい情報や記事をまとめていきたいと思います。 引き続き「野口病院Ensemble(アンサンブル)」をよろしくお願いいたします。 野口病院広報委員会
X線(レントゲン)検査やCT検査,MRI検査などの画像検査を受ける前に,「着替え」をお願いすることがあります。どういった服装のときに着替えていただくことになるのか,なぜ着替えが必要になるのかは,受ける検査によって異なります。今回は,X線(レントゲン)検査について説明します。 X線検査に最適な服装 X線撮影では,X線が透過しやすいものほど黒く写り,透過しにくいものほど白く写ります。例えば空気を多く含んでいる肺はX線を透過しやすいので黒く写り,骨はX線を透過しにくいので白く写ります。医師はこの白黒の濃淡の差などを見て画像診断(読影)を行います。X線が透過しにくい素材の服装や装飾は,画像に白く写り込んでしまうためX線撮影時には適しません。 X線を透過しにくいもの 金属類(ファスナー,下着の金具・ワイヤー,アクセサリーなど) プラスチック類(ボタン,ビーズなど) 顔料を含むプリントや刺しゅう,レースなどの装飾 厚手の素材(補正下着,ブラトップ,ボディスーツなど) これらが観察したい部分と重なって白く写り込んでしまうと,異常を見つける機会を逃し,正確な診断ができなくなるおそれがあるのです。 野口病院では検査着の貸し出しと男女別更衣室がありますので,着替えが必要な場合にはご協力をお願いいたします。 (野口病院放射線科診療放射線技師)
病理診断科とは【2】 今回は,細胞診の検査についてお話しします。 (前回の記事「病理診断科とは【1】」) 甲状腺腫瘍の手術前(術前)の検査においては,穿刺吸引細胞診検査が行われます。超音波(エコー)検査で腫瘍の位置を確認しながら細い針を皮膚から刺し,注射器で腫瘍から吸い出した細胞を顕微鏡で観察するものです。 甲状腺のがん細胞はいくつかの種類(組織型といいます)に分けられますが,甲状腺がんの約90%を占めているのが甲状腺乳頭がんです。写真1に顕微鏡で甲状腺乳頭がんの細胞を観察したときの典型的な所見を示します。 ブドウの実のように青く染まっているのががん細胞の核の集まりです。その核の中がとても明るく透き通って見え,目玉焼きのように核の中に丸い構造物(赤矢印,核内細胞質封入体といいます)があり,コーヒー豆のように線がはいったような核の溝(黒矢印)などの特徴がみられます。 細胞診の検査によって,この腫瘍が甲状腺がんであることだけでなく乳頭がんであるということまで分類することができるのです。甲状腺乳頭がんを細胞診で正しく診断できる確率(正診率)は非常に高いことがわかっています。 顕微鏡で観察するために,穿刺吸引された細胞の核と細胞質に色付け(染色)をします。染色には,一般にパパニコロウ染色法が用いられます。パパニコロウ染色法では,標本作製から診断結果をだすまでに少なくとも2〜3時間が必要となります。また顕微鏡の観察を外部の検査会社に依頼する場合は,さらに時間がかかり患者様への細胞診の診断結果の説明が翌日以降になってしまいます。 そこで野口病院では,細胞診の診断結果報告を迅速に行うために迅速細胞診を併用しています。写真2は,一度の穿刺吸引で得られた針の中にある細胞から,迅速細胞診用の染色とパパニコロウ染色用の2種類の標本を作製しているところです。通常のパパニコロウ染色標本に比べて迅速細胞診標本の染色性はやや劣りますが,数分で染色が完了し,10分以内に診断結果を報告することができます。ただ,採取された細胞数が少なすぎて診断できないなどの理由で2回目の穿刺が必要になることがあります。ときにパパニコロウ標本で行った診断と結果が異なることもありますが両者の一致率は95%以上であり,迅速細胞診は通常のパパニコロウ染色法に引けを取りません。このふたつの染色を併用することで,細胞診を含めた 続きを読む >>
もっと知りたい採血のこと! 甲状腺の病気では,血液中の甲状腺ホルモンの量を調べることによって診断を行い,治療方針を決めたり薬の量を調節したりしています。甲状腺ホルモンの量を調べるためには毎回採血をする必要があります。 今回は患者さんからよく聞かれる採血についての質問におこたえします。 採血する場所(血管)はどうやって決めているのですか? 安全に確実に血液をとるため,①痛みが少ない部分 ②神経とはなれたところにある血管 ③よく見えてしっかり太い血管 を選んでいます。腕の内側は筋肉が少なくやわらかいため,血管を確認しやすく採血に適した場所です。血管が細い方でよく確認できない場合は,手の甲など他の場所から採血することもあります。ただ,手の甲は腕の内側に比べると痛みを感じやすい部位ですので,できるだけ腕の内側から採血するようにしています。 なぜゴムで腕をしばるのですか? ゴムで腕をしばると,手の先から心臓に戻ろうとする皮膚表面に近い血管の血液の流れがせき止められて,血管が盛り上がって見えやすくなるため,採血がしやすくなります。さらに効果をあげるために,親指を中にしてぎゅっと手をにぎるようお願いしています。 血管がでにくいのですが事前に自分でできることはありますか? おふろから上がったあとは血行が良くなるので血管が浮き出て見えるという経験があると思います。反対に手先が冷たい場合や緊張すると血管が縮まって血管が見えにくくなります。カイロで手のひらを温めたり,手のひらをこすり合わせてマッサージしたりすると血管が見えやすくなります。また,採血の前に水分補給をすると血液の流れが良くなり血管は見えやすくなることがあります。 血液はからだの中にどのくらいありますか? 血液量は体重のおよそ1/13と言われています。体重50kgの場合は約3,800mLの血液が流れている計算になります。通常の採血量は15~20mL(計量スプーン大さじ1くらい)なので,血が足りなくなったり,貧血になることはありません。ちなみに献血の場合は1回につき200~400mLの血液を採取します。 わたしの血液は黒っぽく見えるのですが… 血液が赤く見えるのはヘモグロビンという赤い色素があるからです。ヘモグロビンは酸素をたくさん含むと鮮やかな赤色になります。からだのいろんな場所へ酸素を運んで代わりに二酸化炭素を受け取ります 続きを読む >>
放射線科で行う検査 野口病院の放射線科で行う画像検査には、レントゲン検査、CT検査、MRI検査、核医学(RI)検査、PET/CT検査、骨塩定量検査があります。これらの検査についてご説明する際に「似たようなアルファベットが並んで検査の違いが分からない」というご意見をよくいただきます。検査の正式名称を英語、日本語で書くと下の表のようになります。 日頃よく使う言葉 英語 日本語 X線(エックスせん) 検査レントゲン検査 X ray X線検査、一般撮影、 レントゲン検査 CT(シーティー) Computed Tomography コンピューター断層撮影 MRI(エムアールアイ) Magnetic Resonance Imaging 磁気共鳴画像 RI (アールアイ) Radio Isotope inspection 核医学検査 PET(ペット) PET/CT(ペット/シーティー) Positron Emission Tomography 陽電子放出断層撮影 「放射線科での検査」と言っても、全ての検査で放射線を使うわけではありません。上の表の中で、MRIの検査は放射線を使わない検査です。これらの検査は、①どこを検査するか、②何を見るのか、など目的によって、どの検査を行うかを決めています。 今回はX線検査についてご説明します。 X線検査(エックスせんけんさ) 1895年(明治28年)11月8日にドイツの物理学者ヴィルヘルム・レントゲン博士がエックス線(X線)を発見しました。このため、X線検査をレントゲン検査とも言います。 X線検査では、X線(放射線の一種)を使います。 検査したい部位にX線を当てて画像として映し出します。検査時間が短く、早く画像を確認できるので、様々な部位に広く行われる検査です。当院では頚部、胸部のX線検査を受けていただくことが多く、必要に応じて腹部や骨など様々な部位の検査を行います。 頚部の検査では、気管や頚椎(首の骨)、軟部組織(筋肉や皮膚などが写し出されている部分)など、胸部の検査では、肺、気管、気管支、心臓、血管、胸椎(背骨)、肋骨や軟部組織などが映し出されます。ただし、X線検査では上に書いた器官が重なって映し出されるので、細かい部分が十分に評価できません。このためさらに詳しく調べる必要がある場合はCTやMRI検査を行います。 胸部X線写真 日本でX線 続きを読む >>
診療記録管理室のお仕事 診療記録管理室では患者さんの診療情報を収集・データ化し,情報の分類・分析・統計管理を行っています。医療の質の向上を目指し,職員3名で日々業務に取り組んでいます。 その業務の一つである「追跡調査」についてお話します。 追跡調査 当院では,入院治療を受けられ「追跡調査」の同意をいただいた患者さんを対象に定期的にアンケート調査を行っています。 野口病院の「追跡調査」の歴史は古く,1938年(昭和13年)頃から始まって80年以上ものあいだ調査を継続しています。開始当初は往復ハガキを使用していましたが,現在は封書でアンケート用紙をお送りしています。2022年現在,約1万5千人の方が調査の対象となっています。 アンケートでは,しばらく受診されていない方,遠方のため当院を受診できず近医で受診されている方に,現在の健康状態や病気の治療状況などについてお尋ねしています。 甲状腺の病気の中には,長い年月が経過した後に再発したり,甲状腺ホルモンの過剰や不足の状態になって体調を崩してしまうことなどもあります。 患者さんにとっては「ご自身のお身体の状態を確認していただき,適切な時期に医療機関で受診していただくこと」,医療者にとっては「記録した情報を収集・分析し,診断や治療法の向上に役立てること」がこのアンケート調査の目的です。 薄緑色の封筒に追跡調査についてのお手紙・アンケート用紙・返信用封筒を同封し,毎月200~300名の方に郵送しています。 なかにはアンケート用紙の余白や便せんに,ご自身の近況や入院されていた頃の思い出などを書いてくださる方もいらして,ありがたく拝読しています。 皆さまからのお返事は,今後も甲状腺疾患に対する診断や治療法の改善に役立ててまいります。 (野口病院診療記録管理室)
甲状腺手術の合併症(2) 甲状腺の裏側には副甲状腺という名前の臓器が存在します。これは甲状腺とは全く別の臓器です。通常,副甲状腺は左右に2つずつ計4つあり甲状腺に付着しています。人によっては副甲状腺が5つ以上ある場合や,甲状腺とは離れた位置に存在する場合もあります。正常の副甲状腺は米粒ほどの大きさで,とても小さな臓器です。副甲状腺もホルモンを分泌する臓器であり,副甲状腺ホルモン(PTH)が分泌されます。PTHは主に骨・腎臓・腸に働きかけて,血液中のカルシウム濃度とリン濃度を調整する働きをします。PTHが上昇すると血液中のカルシウム濃度が上昇し,PTHの分泌が低下すると血液中のカルシウム濃度が低下します。 甲状腺の手術では副甲状腺の近くまで扱います。手術の操作によって副甲状腺も一緒に切除されたり,あるいは副甲状腺の血流が低下するなどして4つある副甲状腺の働きがすべて低下してしまうと,PTHの分泌が極端に低下して血液中のカルシウム濃度が下がります。これが副甲状腺機能低下症による低カルシウム血症と呼ばれる合併症です。低カルシウム血症の症状は,まず両手指がピリピリとしびれてきて,次第に両手先がつって固まってきます。これはテタニー発作と呼ばれています。さらに重症になると,しびれが全身にひろがってきます。バセドウ病の術後のテタニー発作は手術の翌日の朝におこりやすく,甲状腺腫瘍の術後では手術後2~3日経ってからおこりやすいのが特徴です。 当院のバセドウ病の手術(甲状腺亜全摘術)では,副甲状腺はできる限り血流を温存して元の状態のまま残すようにしています。当院でのバセドウ病手術後の副甲状腺機能低下症の発生する確率は約8%ですがその大部分が一時的なものです。また,これは甲状腺全摘術を行った場合に比べると低い値です。 低カルシウム血症に対する治療は,カルシウム剤と活性型ビタミンD剤という2種類のお薬の内服です。それでもしびれの症状が強い場合はカルシウム剤の点滴を行います。このようなお薬の治療が開始になると,薬の量を調整する必要がありますので,入院期間が予定した期間よりも長くなります。手術後の低カルシウム血症の多くは一過性のものなのでお薬はその後中止できますが,お薬をずっと続けなければならないこともあります。 (野口病院外科 内野眞也)
甲状腺手術の合併症 今回は当院で行っている甲状腺手術後の合併症のなかでも反回神経麻痺についてお伝えします。 反回神経は声帯を動かして声をだす働きをしているとても重要な神経です。甲状腺の後ろには気管があり,気管の横に細い神経があります。これが反回神経です。この神経は迷走神経という太い神経として脳から左右の総頚動脈に沿って下行し,胸の中に入ってから左右それぞれ一本ずつ枝分かれして上方へ再び返って来るので”反回”神経と呼ばれます。反回神経は気管の横を上行し,甲状腺の裏を通って最終的に声帯につながっています。 手術によって左右どちらか一方の反回神経が障害をうけると,声がかすれます。また,ものを飲み込むときにむせるようになります。これが反回神経麻痺の症状です。声のかすれは,以前の自分の声とはまったく違う声になることが多く,大きな声をだそうとしても太い声が出ずに,ひそひそ話をしているときのような声になります。ときにハスキーな声やガラガラ声に変わってしまうこともあり,とくに電話などの時には内容が相手に伝わりづらくなったりもします。もし左右両方の反回神経が同時に麻痺を起こした場合は声がほとんど出ず,呼吸もできない状態になりますので,気管切開という処置が必要になります。 反回神経の太さは1~2mmと細く,手術操作で神経を直接触ることにより容易に麻痺がおこりやすいとても繊細な神経です。野口病院のバセドウ病の手術では,反回神経が走っている部位をほとんど触ることがないため,反回神経を麻痺させる可能性は極めて低いと言えます。それでも神経に影響がでる可能性はゼロではありません。当院のバセドウ病手術後の反回神経麻痺の発生率は約1%で、そのうち90%以上は一過性の(一時的な)麻痺で半年以内に自然に回復しています。 つづく 次回は「甲状腺手術の合併症(2)」として副甲状腺機能低下症についてお伝えします。 (野口病院外科 内野眞也)
病院の理念と患者様の権利| 個人情報保護方針| プライバシーポリシー| カルテ開示指針|一般事業主行動計画
〒874-0902 大分県別府市青山町7-52
保険医療機関 医療法人 野口病院
病院代表 0977-21-2151|再診予約共通 0977-21-9700|fax 0977-21-2155
Copyright(C) Noguchi Thyroid Clinic and Hospital Foundation. All rights reserved.
当院へのご意見、ご質問はこちらへお願い致します