内分泌疾患専門病院
甲状腺・副甲状腺疾患、糖尿病などの生活習慣病

ペンドレッド症候群について

1) 感音性難聴について | 2) 甲状腺腫とヨウ素有機化障害について | 3) PDS遺伝子について
4) 常染色体劣性遺伝形式について | 5) 最後に


ペンドレッド症候群は、1) 感音性難聴、2) 甲状腺腫、3) ヨウ素有機化障害の3つの症状を持っている病気です。ペンドレッド症候群は1896年にイギリス人のペンドレッド医師が甲状腺腫を伴う感音性高度難聴の2姉妹を初めて報告したことによりその名は由来します。

1) 感音性難聴について    

難聴は多くの場合幼児期に両親により気づかれ、発症していることが多いとされています。したがって、早期に難聴となるために、言語発声の習得が困難になります。難聴の原因は耳の中の内耳という部位の奇形によると考えられています。内耳奇形の場合は蝸牛というカタツムリのような形をした3回転半の内耳の構造が1-2回転くらいしかないことによるもので、モンディニ奇形と呼ばれています。また前庭水管といって、内耳の内リンパ管の拡張が原因にもなります。現在では、このような内耳の異常があるかないかは、高解像度のCTで内耳を調べることや、聴力検査から明らかにすることができます。

難聴の程度はペンドレッド症候群の患者さんで様々で、難聴の程度が強い場合もあれば、比較的軽い場合もあります。また難聴の具合も時期により強かったり、ある程度よかったりすることもあります。まためまいを伴うこともあり、ある時期めまいで悩まされることがひとつの特徴です。

現在この難聴を根本的に治してしまうことはできません。難聴の程度が軽い患者さんでは補聴器によりある程度聞くことができる患者さんもいらっしゃいますが、多くの場合は補聴器だけでは難しいようです。(現在ある特定の医療機関でしか実施できませんが) 人工内耳などを装着することによりある程度聴力を得ることが今後可能になってくるかもしれません。

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2) 甲状腺腫とヨウ素有機化障害について

甲状腺腫は一般に小児期に気づかれることが多く、症状としては甲状腺腫による前頸部の腫れがみられます。甲状腺腫の大きさも様々であり、外見上ほとんどわからないようなものから、巨大な甲状腺腫であることもあります。甲状腺機能は正常のことが多く、身体的には頸部以外に症状はないことがほとんどです。時に甲状腺機能亢進症や甲状腺機能低下症といって、甲状腺ホルモン値の異常を伴い、それによる症状を訴える場合があります。甲状腺機能亢進症では動悸・体重減少・手のふるえ・下痢・汗が多い、よく食べる、目が飛び出すなどの症状が、甲状腺機能低下症ではむくみ・体重増加・便秘・眠気・皮膚乾燥・脱毛などの症状が一般的ですが、これらの症状がでてくることはあまりないと考えてください。

甲状腺腫はヨウ素有機化障害によるものと考えられます。体の中に取り込んだヨウ素は甲状腺ホルモンを作るのに利用されますが、ヨウ素有機化障害があると、甲状腺ホルモン合成がうまくできないことになります。現在ではペンドレッド症候群の場合、その原因遺伝子であるPDS遺伝子によって作られる蛋白(ペンドリンといいます)の解析から、体の中に取り込んだヨウ素がうまく甲状腺濾胞(甲状腺ホルモンを合成する場所)に運ばれないことが判明してきました。しかしペンドレッド症候群の患者さんでなぜ甲状腺腫の大きさに差があるのかどうかはまだよくわかっていません。

多くの甲状腺腫は、びまん性甲状腺腫といって、甲状腺全体が腫れてくるものです。甲状腺腫に対して、特にこれといったよい治療法はありません。甲状腺ホルモン剤(チラージンS錠)を処方して甲状腺腫を小さくしようとか、大きくなるのを防ごうとする場合もありますが、実際のところ、効果はあまり期待できません。だからといって、医療機関に行かずに、甲状腺腫をそのまま放置しておくのもよくありません。それは今後甲状腺腫が大きくなってくる可能性、甲状腺腫瘍が発生してくる可能性があるからです。

ペンドレッド症候群で甲状腺腫瘍をおこすことはこれまで比較的少ないと考えられてきました。しかし、甲状腺腫瘍が偶然見つかる場合も最近経験するようになってきました。近年の検査機器の進歩により、小さな甲状腺腫瘍も見つかるようになってきたからです。その場合には腫瘍が良性か悪性かの検査を十分に行った上で、手術を行うかどうかを決めなければなりません。また腫瘍がみつからなくても、びまん性甲状腺腫があまりにも大きい場合には息苦しいなどの症状がでてきますので、甲状腺を全部取ってしまうこともあります。このような場合には手術のあとに甲状腺ホルモン剤(チラージンS錠)を一生飲み続けることになります。薬を飲み続けることに関しては特に副作用などの問題はありませんので、安心して飲んでいただけます。

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3) PDS遺伝子について

ここの病気は遺伝性の病気です。常染色体劣性遺伝という遺伝形式をとります。この病気の原因となる遺伝子は1997年に明らかになり、PDS遺伝子と命名されています。この遺伝子に突然変異といって、変異がおこることによりペンドレッド症候群が起こると考えられています。現在ではこのPDS遺伝子を調べることにより、ペンドレッド症候群かどうかが診断できるようになりました。

PDS遺伝子の蛋白を作るのに重要な部分(蛋白翻訳領域)は約2400個の塩基から成っていますが、このうち少なくとも2箇所に変異が見つかれば、ペンドレッド症候群罹患者 (りかんしゃ)であることが判明します。1箇所のみの変異であれば発症しないこともあり、その場合は保因者(ほいんしゃ)と呼ばれます。

PDS遺伝子検査により遺伝子の変異がわかった場合には、罹患者か保因者かを明らかにしなくてはいけません。2箇所の変異が証明されれば、ほぼ間違いなく罹患者です。問題なのは1箇所のみの変異しかわかっていない場合です。実はこの場合には罹患者である可能性もあります。現在の検査ではカバーしきれないもう1箇所の遺伝子の変異が隠されている可能性があるからです。この場合には他の検査(聴覚検査、耳のCT検査、甲状腺超音波検査、ヨウ素有機化障害の検査など)を行って、罹患者か保因者かどうかを臨床的に診断することが重要です。

  • 遺伝子診断の結果で、罹患者か保因者であったならば、血縁者の方でPDS遺伝子診断を希望される方がいらっしゃれば、血縁者の遺伝子診断も可能になります。
  • 遺伝子診断の結果が正常(変異なし)であれば、血縁者の方にPDS遺伝子に変異のある方がいる確率は極めて低いと考えますので、血縁者の方のPDS遺伝子診断は必要ないでしょう。

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4) 常染色体劣性遺伝形式について    

それでは常染色体劣性遺伝形式について簡単に説明します。通常、ヒトはすべての遺伝子を2つ持っています。一つは父親由来で、もう一つは母親由来のものです。劣性遺伝では、両方の親からもらった遺伝子で両方とも変異のある遺伝子をもらってきた場合のみ病気を発症します。一つは変異のある遺伝子を、一つは正常な遺伝子をもらってきた場合は、病気を発症しませんが、保因者ですので、遺伝子の変異をさらに子孫に伝える可能性があります(以下のように必ずしも伝えるわけではありません)。

  1. 両親ともペンドレッド症候群患者であれば、その子供は全員ペンドレッド症候群になります。
  2. 片方の親がペンドレッド症候群で、もう片方の親が保因者の場合は、その子供は1/2の確率でペンドレッド症候群を発症します。
  3. 片方の親がペンドレッド症候群で、もう片方の親が正常(保因者ではなく、両親由来の遺伝子が2つとも正常な遺伝子)の場合は、その子供がペンドレッド症候群になることはありません。
  4. 両親とも保因者の場合は、その子供は1/4の確率でペンドレッド症候群を発症します。
  5. 片方の親が保因者で、もう片方の親が正常(保因者ではなく、両親由来の遺伝子が2つとも正常な遺伝子)の場合は、その子供がペンドレッド症候群になることはありません。
  6. つまり、罹患者や保因者である場合には、今後産まれてくる子供がペンドレッド症候群を発症する可能性があるかどうかは、配偶者のPDS遺伝子に変異があるかどうかにより決まってくることになります。

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5) 最後に   

最後に、難聴を引き起こす遺伝子は100以上あると考えられています。現在はまだその一部が明らかにされたにすぎず、ペンドレッド症候群はそのひとつです。たとえPDS遺伝子が正常であっても、他の遺伝子の異常により難聴を引き起こしているかもしれません。今後ヒトの遺伝子の解明がさらに進むことにより難聴に関することももっと詳しくわかってくることと思います。

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