内分泌疾患専門病院
甲状腺・副甲状腺疾患、糖尿病などの生活習慣病 Facebookページへ Twitterへ

第6章 薬物療法と低血糖

薬物療法の適応

糖尿病の治療の基本は食事療法と運動療法です。これらの治療で充分にコントロールできない時には薬物療法を併用します。充分な食事療法をせずに、ただ血糖値を下げるためだけに薬を使うことは避けなければなりません。しかし、薬物を嫌って血糖が高いまま漫然と食事療法と運動療法だけを続けると、膵臓のインスリンを作る細胞を疲れさせて糖尿病を悪化させることになります。薬物療法が必要と判断される場合は薬の力を借りるべきです。糖尿病の治療薬には多くの種類があり、どの薬があうかは人それぞれ異なります。適切な薬剤をタイミングよく上手に利用すれば、血糖コントロールは必ず良くなります。

インスリン注射

インスリンの作用が不足するために慢性に高血糖が持続するのが糖尿病です。足りないインスリンを注射で補えば血糖値は下がります。1型糖尿病、妊娠合併糖尿病、糖尿病性昏睡、大きな手術の前後、重い肝疾患や腎疾患、感染症の合併、または経口糖尿病薬でコントロールできない2型糖尿病ではインスリン注射を用いてコントロールしなくてはいけません。「インスリン注射を一旦始めたら一生続けなければいけない」と思っている人もいますが、2型糖尿病の場合はインスリン注射を用いて膵臓をしばらく休めると、インスリンを作る機能が回復してインスリン注射を止めることができる人がたくさんいます。インスリン注射には色々な種類がありますので、自分の注射しているインスリンの名前と量、特徴を覚えておきましょう。

1)超速効型インスリン

超速効型インスリンは注射後約15分以内に効果が出るので毎食直前に皮下注射します。作用が続く時間は3〜5時間です。透明なインスリンです。ノボラピッドやヒューマログといった製剤があります。

2)速効型インスリン

注射後約30分で効果が現れ6〜8 時間効果が続きます。透明なインスリンです。ペンフィルR 、ノボリンR、ヒューマカートR、ヒューマリンRなどの製剤があります。毎食30分前に皮下注射します。

3)中間型インスリン

注射後約1時間半で効果が現れ、24時間近く効果が持続します。白色に混濁したインスリンです。注射の前によく振って混和して下さい。ペンフィルN、ノボリンN、ヒューマカートN、ヒューマリンNなどの製剤があります。速効型インスリンの毎食前注射と組み合わせて眠前に使うことが多い製剤です。

4)混合型インスリン

超速効型インスリンあるいは速効型インスリンと中間型インスリンを混合したものです。混合の割合の異なる製剤が数種類あります。白色に混濁したインスリンです。注射の前によく振って混和して下さい。
超速効型インスリンと中間型インスリンを混合した製剤にはノボラピッド30ミックス、ヒューマログミックス25、ヒューマログミックス50があります。注射後15分以内に効果が現れ24時間近く効果が持続します。通常1日2回朝夕食直前に皮下注射します。速効型インスリン30 %と中間型インスリン70 %を混合した製剤にはペンフィル30R、ノボリン30R、ヒューマカート3/7、ヒューマリン3/7などの製剤があります。これらの製剤では注射後約30分で効果が現れ24時間近く効果が持続します。通常1日2回朝夕食前30分に皮下注射します。

5)持効型インスリン

持効型インスリンは注射後1〜2時間で効果が現れ約24時間作用が続く製剤です。ランタスという製剤があります。

インスリンは腹部や大腿の皮下に毎回部位を少しずつずらして注射して下さい。ペン型注射器にセットした使いかけのインスリンは室温で保管しますが、まだ使っていない新しいインスリン製剤は冷蔵庫(冷凍庫に入れないで下さい)で保管します。
使い捨てペン型注射器(フレックスペン)でインスリンを注射する方法を説明します。他の注射器具を使う場合はそれぞれの方法に従って下さい。

  1. 手をよく洗います。
  2. インスリンが必要な量残っているか確かめます。
  3. 混合型インスリン、中間型インスリンはよく振って混和します。
  4. 先端のゴムの部分を消毒し使い捨て注射針を装着します。
  5. 目盛りを2単位に合わせて空打ち(空気抜き)をします。
  6. 目盛りを注射したい単位数に合わせます。
  7. 腹部の注射部位を消毒します。
  8. 皮下脂肪をつまんで、皮膚に垂直に注射します。
  9. 注射ボタンを最後まで押したら数秒間そのままに保ったあと針を抜きます。
  10. 注射した場所を消毒綿で拭きます。
  11. 注射針をフレックスペンからはずして廃棄容器に入れます。
  12. 使用済みの注射針やフレックスペンは
    診察時に病院へお持ちいただければ病院で処分します。

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経口糖尿病薬

2型糖尿病で食事療法と運動療法だけで血糖がコントロールできない場合は経口糖尿病薬を考慮します。作用機序の異なる色々な薬剤がありますので、その中から合う薬を選んで内服します。基本的には少量から始めて効果が出る量に増やしていきます。また、作用機序の異なる別々の薬を併用するとうまくコントロールできることがあります。内服の時間と食事の時間を規則正しく守って下さい。

1)スルホニルウレア薬 (SU薬)

膵臓を刺激してインスリン分泌を促し血糖を下げる薬です。内服後12〜24時間効果が続きます。内服薬の中では最も強力に確実に血糖を下げますが、インスリンを作る能力がある程度残っている人にしか効きません。主な副作用は低血糖です。ダオニ-ル錠(1錠2.5mg)やグリミクロン錠(1錠40mg)などの製剤があります。通常朝1回または朝夕2回に分けて食前30分に内服します。
アマリール錠(1錠1mgと3mg)は、血糖降下作用はダオニール、グリミクロンとほぼ同程度ですが、インスリン分泌を刺激するだけでなくインスリン抵抗性を改善する作用も持っている薬です。ダオニール、グリミクロンに比べ低血糖が起こりにくいと言われています。朝1回または朝夕2回に分けて内服します。

2)ビグアナイド薬

筋肉でのブドウ糖の利用を高め、肝臓からのブドウ糖放出を抑制して血糖を下げる薬です。低血糖を起こすことはほとんどなく、肥満の人に有効です。重い肝疾患や腎疾患のある人、飲酒の習慣のある人はこの薬を使えません。メルビン錠(1錠250mg)などの製剤があります。

3)食後高血糖改善薬 (αグルコシダ-ゼ阻害薬)

小腸でのブドウ糖の吸収を遅らせ、食後の急激な血糖上昇を改善させる薬です。この薬単独では、低血糖を起こすことはほとんどありませんが、インスリンやスルホニルウレア薬(ダオニ-ルやグリミクロン)と併用する場合は低血糖を起こすことがあります。低血糖を起こした時には、砂糖ではなくブドウ糖を摂取する必要があります。内服を始めた初期にはお腹にガスが貯まりやすく、おならが増えたり下痢や軟便を生じることがありますが、たいていは内服を続けるうちに軽快します。ベイスン錠(1錠0.2mgと0.3mg)、グルコバイ錠(1錠50mgと100mg)、セイブル錠(1錠25mg、50mg、75mg)があります。毎食直前に内服します。

4)速効型インスリン分泌刺激薬

インスリン分泌を促す作用によって食後の血糖上昇を改善させる薬です。内服後の約3時間だけ効果が続きます。スターシス錠(1錠30mgと90mg)、ファスティック錠(1錠30mgと90mg)、グルファスト錠(1錠5mgと10mg)があります。毎食直前に内服します。内服後に食事を摂らなければ低血糖をおこす可能性があります。

5)インスリン抵抗性改善薬

インスリン分泌を刺激することはありませんが、インスリン抵抗性の改善を介して血糖を下げる薬です。肥満のある人に効果的で、男性より女性に効きやすいのが特徴です。副作用としてむくみ、体重増加、肝機能障害が起ることがあります。心不全のある人には使えません。アクトス錠(1錠15mgと30mg)があります。1日1回朝食後に服用します。この薬単独で低血糖をおこすことはまずありません。

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低血糖

薬物は糖尿病の治療に大切ですが、薬によっては低血糖をおこすことがあります。低血糖は早く適切な対処さえできればこわいものではありません。低血糖にならないように予防することが大切ですので下記の注意を守って下さい。なお、この注意は家族やまわりの方にも必ず知らせて下さい。

1)低血糖とは

血糖値が50〜60 mg/dl以下になり次項のような症状がみられることを低血糖といいます。インスリン注射、スルホニルウレア薬(ダオニ-ル、グリミクロン、アマリールなど)、速効型インスリン分泌刺激薬(スタ-シス、ファスティック、グルファスト)などの薬物療法を受けている人に起こることがあります。

2)低血糖の症状

 低血糖のなりはじめの症状 血糖値の目安
(mg/dl)
 | 空腹感、眠気、あくび、気分がわるい
 |60
 | 無気力、倦怠感、計算力の低下
 |50
 | 発汗(冷汗)、動悸(頻脈)、呼吸がはやくなる
 |50
 | ふるえ、顔面蒼白
 |40
 | しゃべれなくなる、歩けなくなる
 |40
 | 意識消失
 |30
 ↓ けいれん、昏睡
 ↓30
低血糖の進んだ症状

3)低血糖の対処

症状の軽いうちに早く対処することが大切です。軽いうちは糖分を摂ると治ります。

  1. 直ちに砂糖10〜20 gを水で飲みます。常時、砂糖またはブドウ糖を携帯しましょう。砂糖のない場合、糖質含有食品(コ-ラや缶ジュ-ス類を半分〜1本)を摂ります。αグルコシダ-ゼ阻害薬(ベイスン、グルコバイ)を内服している人はブドウ糖やブドウ糖含有のジュ-スなどを摂る必要があります。
  2. 10〜15分で症状の改善がない場合、もう1回砂糖10〜20 gを摂ります。意識のない場合や糖分を経口摂取できない場合は、すぐ近くの病院に連れて行ってもらいブドウ糖を注射します。

4)低血糖の主な誘因

食事摂取量の不足、食事時間の遅れ、補食のとり忘れ、いつもはしない強い運動、薬の量や時刻の間違いなど、いつもと違う不規則なことが低血糖の誘因になります。規則正しい生活を心がけて下さい。もちろん不適切な薬が処方されている場合にも低血糖の危険があります。

5)低血糖の予防

  1. 食事は、時間・量ともに規則正しく摂りましょう。嘔吐・下痢が続いたり、食事が摂れないときには、主治医に連絡して下さい。
  2. いつもより運動量が多くなる時は、補食などについて事前に主治医に相談しましょう。
  3. 薬の量や飲み方(使い方)は、主治医の指示通り正しく守りましょう。もし服用(使用)を間違った時は主治医に連絡して下さい。検査その他の理由で食事がとれない場合は、インスリン注射や経口糖尿病薬を使用しないで下さい。
  4. 他の病院で薬をもらう時は糖尿病で薬の治療を行っていることを伝えましょう。薬の中にはいっしょに飲むと低血糖をおこす薬があります。

6)その他

  1. 自動車の運転中や、高所作業、危険を伴う作業を行っているときに低血糖を起こすと事故につながる恐れがありますので、特に注意して下さい。
  2. 注意していても意識を失うような強い低血糖を起す可能性があります。糖尿病手帳を常に身につけておき、すぐに対処してもらえるようにしましょう。

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