内分泌疾患専門病院
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甲状腺髄様癌と多発性内分泌腺腫症(MEN2)について

甲状腺髄様癌について | 遺伝する場合と遺伝しない場合 | RET遺伝子検査
遺伝子検査に基づく甲状腺髄様癌の治療
血縁者の遺伝子検査と予防的あるいは早期甲状腺全摘
副腎褐色細胞腫 | 原発性副甲状腺機能亢進症


甲状腺髄様癌について

  • 甲状腺は、頸部の正中で男性でいうと喉仏の下で気管の前に位置し、蝶々が羽を広げたような形の臓器です。甲状腺は甲状腺ホルモンを産生する臓器ですが、濾胞細胞とC細胞(傍濾胞細胞)からなります。甲状腺の99%以上は甲状腺ホルモンを作る濾胞細胞からなり、C細胞は甲状腺内でもごくわずかです。C細胞はカルシトニンというホルモンを分泌しますが、これは血液中のカルシウム濃度を下げる作用をもつホルモンとして知られています。C細胞が癌化したものが甲状腺髄様癌と呼ばれるがんです。
  • 甲状腺癌の種類としては、約85%が乳頭癌、約10%が濾胞癌であり、これらは濾胞細胞から発生する癌です。日本の甲状腺髄様癌の頻度は約1%です。
  • 髄様癌はカルシトニンやCEAを分泌しますので、血液中のカルシトニンとCEAは腫瘍マーカーとして用いられています。カルシトニンの値が高くなっても、それだけの作用により血液中のカルシウム値が低下することはありません。
  • 甲状腺髄様癌の主な症状は頸部腫瘤であり、腫瘍が小さい時期はほとんど無症状です。他の症状としては、喉の違和感、声がれ、ものをのみこみにくい、息がしづらいなどです。
  • 検査では、頸部の超音波検査と血液中のカルシトニン、CEA値の測定を行います。甲状腺内に腫瘍が存在する場合やリンパ節の腫れがみられる場合は、穿刺吸引細胞診を行います。より詳しい画像検査として、頸部CTやMRI、胸部CTなどを行います。またカルシトニン誘発刺激試験という検査を行う場合があります。

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遺伝する場合と遺伝しない場合

  • 甲状腺髄様癌が初めて見つかった患者さんの場合、その約30%は遺伝が原因でできたものであり、約70%は遺伝とはほぼ無関係にできたもの(非遺伝性=散発性)です。
  • 遺伝性の場合は、多発性内分泌腫瘍症2型(Multiple Endocrine Neoplasia type 2)と呼ばれ、略してMEN ( エ ム イ ー エ ヌ) 2型と呼びます。
  • MEN 1型と呼ばれる遺伝性の病気がありますが、これはMEN 2型とはまったく異なる病気です。
  • MEN 2型は2つのタイプに分類されます。
    • MEN 2A:ほぼ100%に甲状腺髄様癌、約50%に副腎の褐色細胞腫(その半数は両側)、5%に副甲状腺機能亢進症を発生します。
    • MEN 2B:ほぼ100%に甲状腺髄様癌、約50%に副腎の褐色細胞腫、舌や口唇の粘膜下神経腫、腸管神経節腫、マルファン様体型(やせ型で手足が長い)
  • 遺伝性に甲状腺髄様癌のみができる家系は、MEN 2型とは区別して、家族性髄様癌(Familial Medullary Thyroid Carcinoma)、略してFMTCと呼びます。
  • MEN 2型あるいはFMTCは、常染色体優性遺伝という遺伝形式により遺伝します。これは親から子供へ男女関係なく遺伝するもので、各人に対して遺伝する確率は1/2です。逆に遺伝しない確率も1/2ですので、血縁者全員が遺伝するというわけではありません。

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RET遺伝子検査

  • 遺伝しているかしていないかの確定診断として、RET遺伝子検査は最も有用な方法です。ASCO(米国臨床腫瘍学会)ではRET遺伝子検査は標準的な医療として位置づけられ、積極的に推奨されています。
  • 遺伝子検査は通常の採血と同様に採取した血液を用います。血液中の白血球からDNAを抽出してRET遺伝子という遺伝子だけをPCRという方法で人工的に増やします。これをDNAシーケンサーという装置にかけて遺伝子配列を読みます。
  • RET遺伝子はヒト10番染色体にある遺伝子です。この遺伝子に通常の遺伝子配列とは異なる配列の変化(変異とよびます)があると、この遺伝子でコードされて作られるタンパク質に異常をきたし、遺伝性の病気(MEN 2、FMTC)になることがわかっています。
  • MEN 2型およびFMTCの約97%以上にRET遺伝子の変異が証明されます。
  • 通常はRET遺伝子の変異が親から子供へ1/2の確率で遺伝するので、両親のどちらかに変異が証明されます。しかしMEN 2B型などでは新生突然変異といって両親のどちらにも変異が認められない場合があります。
  • 稀にRET遺伝子変異が証明されない場合(約3%以下)でも、家族歴や臨床症状などからMEN 2型あるいはFMTCと診断される場合があります。
  • 家族歴がなくても遺伝子変異は約10-15%に認められるので、甲状腺髄様癌と診断がついた患者様のすべてにRET遺伝子検査の説明を行います。
  • RET遺伝子の中で、この病気に関わる変異がみつかる場所はほぼわかっていますので、その部位周辺だけを調べます(エクソン10, 11, 13-16という場所で、RET遺伝子の真ん中からやや後半の部分になります)。
  • 遺伝子のどの場所に変異がみられるかで、MEN 2AかMEN 2BかFMTCかがある程度わかります。
  • 腫瘍の発生にはRET遺伝子変異による遺伝的要因の寄与が非常に大きいと考えられていますが、同じ家系の中でも、腫瘍の種類・発生する年齢・病気の進行の具合などが異なります。これはRET遺伝子以外の遺伝子や、生活習慣・環境要因などをはじめとするその他の因子が病気に関与しているためと思われています。
  • 浸透率とは変異遺伝子を有している人の中で、その変異遺伝子が関与している疾患を発症している人の割合をいいます。甲状腺髄様癌の生涯浸透率はほぼ100%です。

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遺伝子検査に基づく甲状腺髄様癌の治療

  • 甲状腺髄様癌の手術前にMEN 2型あるいはFMTCと確定した場合、甲状腺全摘を行います。甲状腺を残した場合、将来再び甲状腺から癌が発生する可能性があるからです。
  • 甲状腺全摘を行った場合は、生涯にわたり甲状腺ホルモン剤を内服する必要があります。甲状腺ホルモン剤は1日に1回内服します。副作用もなく、他の薬といっしょに内服してもほぼ問題ありません。
  • 遺伝性でない(散発性)髄様癌の手術は、必ずしも甲状腺全摘は必要ではなく、残せる部分があれば甲状腺を残すことができます。
  • 気管周囲のリンパ節は遺伝性・散発性いずれの場合も必ず切除します。側頚部のリンパ節は転移が疑われる場合など、症例によって切除する場合があります。リンパ節を切除するときは転移の疑われるリンパ節だけをとるのではなく、領域として広い範囲を切除するため、リンパ節郭清と呼びます。
  • 術後合併症の可能性として、反回神経麻痺、副甲状腺機能低下症などがあります。

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血縁者の遺伝子検査と予防的あるいは早期甲状腺全摘

  • 発端者にRET遺伝子変異が証明されれば、血縁者で遺伝子診断を行うことにより、遺伝しているかどうかの診断が可能になります。
  • MEN 2型あるいはFMTCと診断がついた場合、甲状腺髄様癌ができていないか少なくとも年に1回は検査が必要です。(カルシトニン基礎値測定、カルシトニン誘発刺激試験、頚部超音波検査など)
  • MEN 2型あるいはFMTCでは、前癌状態としてC細胞が過形成を示し、それがその後に髄様癌に発育してきます。
  • 甲状腺髄様癌の発症年齢はMEN 2型のタイプおよびRET遺伝子変異の位置で異なると考えられています。
  • 欧米を中心に、2001年にガイドラインが発表されています。それによると、RET遺伝子変異の位置により遺伝性甲状腺髄様癌のリスクを3段階に分類しています。
    • リスク1はコドン609・768・790・791・804・891の変異で、おおむねFMTCすべてとMEN 2Aの一部が対象です。甲状腺髄様癌の悪性度は3段階の中では比較的マイルドな部類になります。甲状腺全摘の時期は統一したコンセンサスはなく、5才あるいは10才までに甲状腺全摘すればよいという考え方もあるし、カルシトニン誘発刺激試験を定期的に行って異常値が得られた場合に甲状腺全摘を勧める考え方もある、としています。
    • リスク2はコドン611・618・620・634の変異で、おおむねMEN 2Aの変異が対象です。5才までに甲状腺全摘をすべきであるとしています。甲状腺髄様癌の悪性度はレベル1と3の中間に位置します。
    • リスク3はコドン918・883・922の変異で、MEN 2Bの変異が対象です。生後1ヶ月までに甲状腺全摘を行うことが望ましく、生後6ヶ月までに甲状腺全摘をすべきであるとしています。甲状腺髄様癌の悪性度は最も高いとされています。
  • 上記ガイドラインは、欧米のデータを基にして過去に発症した最も早い症例を見逃さないという理由から主に策定されています。遺伝子変異を基に甲状腺を治療した成績が欧米から出始めていますが、非常に長期的にわたる経過をみた報告はまだ存在しません。MEN 2型あるいはFMTCの日本のガイドラインはまだありません。

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副腎褐色細胞腫

  • 副腎は左右の腎臓の上にある小さな三角錘様の形をした臓器です。副腎には外側にある皮質と内側の髄質と呼ばれる部分があります。副腎皮質からはコルチゾールとアルドステロンというホルモンを産生します。副腎髄質からはアドレナリンとノルアドレナリンというホルモンを産生し、非常時に血圧を上昇させたり、心臓から排出する血液のポンプ作用を強めたりします。この髄質にできる腫瘍が褐色細胞腫です。
  • 褐色細胞腫では、副腎髄質のホルモンが大量に合成されて分泌されるため、高血圧、頭痛、心悸亢進、発汗過多などの症状がみられます。これらの症状は持続的にみられたり発作的に起きたりしますが、発作的に起こった場合は脳出血や心不全などを引き起こすことがあります。褐色細胞腫を放置すると、突然の脳出血や心臓発作を起こして命に関わることがあります。
  • 褐色細胞腫があることがわからずに大きな手術を受けた場合、過度の身体的ストレスにより高血圧発作がおこりやすくなり、非常に危険です。また未治療の褐色細胞腫を持った状態での妊娠、分娩は危険ですのでお勧めできません。
  • MEN 2A型あるいはMEN 2B型の約50%に副腎褐色細胞腫を発生します。
  • 褐色細胞腫は両方の副腎にできることがあります。一度に両方の副腎に見つかることもあれば、時間を経て片方ずつみつかることもあります。
  • 褐色細胞腫は、腹部の大動脈周辺など副腎以外の場所にできることもあります。
  • 遺伝性甲状腺髄様癌と判明した場合は、手術前に必ず副腎の検査を行って、副腎褐色細胞腫があるかないかを調べておく必要があります。
  • 褐色細胞腫の検査は、24時間蓄尿を行って尿中のカテコールアミンを測定することが重要です。蓄尿の検査では入院が必要であり、約1-2週間後にその結果がわかります。画像診断ではCT・MRI・シンチなどの検査を行います。
  • 褐色細胞腫がある場合は、手術が最良の治療法です。この場合は、甲状腺髄様癌の手術より先に副腎の手術を行わなければなりません。
  • 副腎の手術法は、仰向けに寝て前方から腹部を切る前方到達法、横向きに寝た状態で側腹部を切る側方到達法、腹ばいになって背中側から切る後方到達法などがあります。最近では内視鏡を用いて手術を行うことが多く、手術を受ける病院で十分経験のある手術法をとれば、安全に手術を行うことができます。
  • 手術で片側の副腎全摘出だけを行った場合、術後に薬をのむ必要はありません。両側の副腎とも全摘出した場合は、副腎皮質ホルモン剤を毎日飲む必要があります。副腎髄質ホルモンは副腎以外の部位でも産生されますので、副腎髄質ホルモンの欠乏はおこりません。
  • 副腎皮質ホルモン(コルチゾール)は生命を維持するために絶対必要なホルモンです。両側副腎全摘後で副腎皮質ホルモン剤の内服が途絶えた場合は生命に危険を及ぼします。決して飲み忘れることがないようにしてください。

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原発性副甲状腺機能亢進症

  • 副甲状腺は、通常は頸部に4個存在する臓器です。甲状腺の奥の方で甲状腺のすぐそばに位置することが多く、正常の大きさは米粒よりやや小さく、副甲状腺ホルモンを産生しています。
  • 副甲状腺ホルモンは、血液中のカルシウム濃度を調節する重要なホルモンです。血液中のカルシウム濃度が低下するとこのホルモンの分泌が高まり、骨に含まれているカルシウムが溶け出て、腸のカルシウム吸収を促進して、血液中のカルシウム濃度を高めます。
  • MEN 2A型の約5%に原発性副甲状腺機能亢進症を発生します。
  • 副甲状腺機能亢進症により過剰の副甲状腺ホルモンが分泌される結果、血中のカルシウム濃度が非常に高くなり、高カルシウム血症を引き起こします。そのため尿中に排泄されるカルシウムも増加します。
  • 高カルシウム尿症による腎・尿路結石症による疝痛は代表的な症状です。ひどくなると腎臓の機能障害を起こすこともあります。骨吸収が亢進します(骨が溶け出す)ので、骨粗鬆症になり、骨折をひきおこすこともあります。胃酸分泌が亢進して胃潰瘍や十二指腸潰瘍をおこしやすくなります。急性膵炎を引き起こすこともあります。
  • MEN 2A型では、基本的にすべての副甲状腺が腫れてきます。その結果いずれの副甲状腺からも副甲状腺ホルモンの分泌が亢進します。しかしその腫れ具合は大小様々です。病理学的には過形成と呼ばれるもので、悪性ではありません。
  • 人によっては副甲状腺が5個あるいはそれ以上存在する場合があり、過剰腺と呼びます。副甲状腺が3個以下の場合、過小腺と呼びます。また副甲状腺の存在する位置は人によってかなり異なり、胸腺内に存在することはよく経験します。時に甲状腺内に埋没していることもありますし、胸部(縦隔内)に存在することもあります。
  • 原発性副甲状腺機能亢進症の検査は、採血・尿検査が大切であり、24時間蓄尿による尿中カルシウム測定を行います。画像検査では、頸部超音波、CT、シンチなどを行って、副甲状腺の存在する部位をみつけます。
  • MEN 2A型における原発性副甲状腺機能亢進症の治療は手術です。
  • 手術では、術中に副甲状腺をすべて見つけ出さなければなりません。しかし上記の理由により副甲状腺をすべて見つけ出すのは困難な場合があります。
  • 手術法としては、副甲状腺を全摘して、その一部を前腕などの皮下あるいは筋肉内に自家移植する方法があります。もう一つの選択肢は、副甲状腺をほとんどすべて摘出しますが、一部のみ(例えば1/2腺くらい)血流を温存して頸部に残す方法があります。
  • 手術後に低カルシウム血症になった場合は、手足のしびれがきます。これをテタニーと呼び、症状がひどいときは手足が硬直します。この場合はカルシウム剤の点滴により症状は改善し、その後カルシウム剤と活性型ビタミン剤の内服治療をしばらく行うことになります。この薬は移植した(あるいは頸部に残した)副甲状腺の働きが十分でてきたところで、薬を中止できます。しかし働きが十分戻らない場合は、ずっと薬を飲み続けなければならないこともあります。

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