内分泌疾患専門病院
甲状腺・副甲状腺疾患、糖尿病などの生活習慣病 Facebookページへ Twitterへ

妊娠と甲状腺の関係について

バセドウ病と妊娠

  1. バセドウ病が妊娠に与える影響
    治療していないバセドウ病で甲状腺ホルモンが多い状態(甲状腺機能亢進症)が持続すると、流産、早産、妊娠中毒症の危険性が増すといわれています。母体血液中の抗TSH受容体抗体(TBII)が高値の場合、胎児、新生児に甲状腺機能亢進症がみられることがあります。一方、母体の甲状腺機能亢進症によって胎児奇形の頻度が増すとの証拠はないようです。
  2. 妊娠がバセドウ病に与える影響
    妊娠週数が進むとバセドウ病は次第に落ちついてきます。薬を内服している人では薬の必要量が減ります。しかし、出産後には再びバセドウ病が悪化することが多いようです。
  3. 妊娠中、授乳中のバセドウ病治療薬
    母体の甲状腺機能亢進症は妊娠経過に悪影響を与えますから、バセドウ病で甲状腺ホルモンが多い時は治療しなくてはいけません。バセドウ病治療薬(抗甲状腺剤)にはチアマゾール(メルカゾール)、プロピルチオウラシル(チウラジール、プロパジール)の2種類がありますが、妊娠中、授乳中はプロピルチオウラシルの方が望ましいと考えられています。チアマゾール内服中の母体から頭皮欠損の新生児が生まれた報告がありますが、一般的には抗甲状腺剤によって奇形の頻度が増すとの証拠はありません。治療しないでホルモンが多いままにしておく方が害が大きいと考えられています。妊娠したことが判った途端に薬を止めてしまうことは誤りです。薬が必要な場合は妊娠中も続けなければいけません。
    母乳への薬の移行はプロピルチオウラシルの方が少なく常用量では児の甲状腺機能には影響しません。チアマゾールは母乳中に移行しますが少量の内服から8〜12時間たてば授乳してよいとの意見もあります。薬に対するアレルギーがなければ、適切な薬物治療でバセドウ病をコントロールしながら、元気な赤ちゃんを育てることは可能です。
  4. バセドウ病治療中に妊娠を希望する場合の治療
    維持量(1日1〜2錠)のプロピルチオウラシル内服で甲状腺機能がコントロールされてから計画的に妊娠することができれば何ら問題はありません。プロピルチオウラシルを内服しながらでも甲状腺機能がコントロールされていれば妊娠してかまいません。
    妊娠するまでに手術でバセドウ病を治療しておく方法もあります。ただしバセドウ病手術直後の数ヶ月からおよそ1年までは甲状腺機能が低下していることがよくあります。この時期に妊娠を希望する場合は甲状腺ホルモン剤を内服して甲状腺機能を正常にコントロールしてから計画的に妊娠することを勧めます。自然の経過で甲状腺機能が回復するまで待てる場合はそれで問題ありません。バセドウ病手術後にもTBII高値が続く場合がありますので、TBIIは測定しておくべきです。
  5. 妊娠中にバセドウ病と初めて診断された場合
    診断された時から薬物治療をきちんと受ければ問題ないと考えられます。妊娠中だからといって薬の量を控えめにする必要はありません。必要なだけの分量の薬を内服して早く甲状腺機能の正常化をはかるべきです。
  6. 妊娠中の薬物治療の実際
    妊娠週数が進むとバセドウ病は次第に安定します。妊娠後半には薬の必要量が減り中止できることもよくあります。薬物治療中は胎児血中の甲状腺ホルモン(遊離T4)値は母体血中のそれより低めになりますから、母体血中の遊離T4が正常上限から軽度高値になるようにコントロールします。妊娠後半に母体血中のTBIIを測定して新生児甲状腺機能亢進症の可能性の有無を調べておきます。
  7. 放射性ヨード治療後の妊娠
    バセドウ病を放射性ヨードで治療した場合、治療から妊娠まで1年以上あければ妊娠経過や胎児に影響はないと考えられています。
  8. 新生児の甲状腺機能亢進症
    バセドウ病の母体血液中には抗TSH受容体抗体(TBII)があります。この抗体は胎盤を通じて胎児に移行します。妊娠後半の母体のTBIIが高値(およそ60%以上)の場合は胎児の甲状腺が刺激されて機能亢進を呈する場合があります。出生直後にも甲状腺機能亢進症を示すことがあります。このような場合は産科、小児科の先生による管理が必要です。新生児の甲状腺機能亢進症は母体から受け継いだTBIIが自然に消失する生後3ヶ月頃までには治ってしまいます。

妊娠初期の一過性甲状腺機能亢進症

妊娠8〜12週頃に一時的に甲状腺機能が亢進することがあります。胎盤がつくるhCGというホルモンによって甲状腺が刺激されるためと考えられています。つわりの強い人に多くみられ、血中hCGは60000 IU/l以上の高値を示します。もともと甲状腺には全く異常がない人にも発症します。一時的な機能異常ですので時期がくれば治まりますが、機能亢進の程度が強い時は無機ヨード剤による治療が勧められます。バセドウ病と見分けるのが難しいことがあります。

慢性甲状腺炎(橋本病)と妊娠

慢性甲状腺炎が妊娠経過に悪影響を与えることはありません。甲状腺ホルモン剤を内服中の場合は血中TSH(甲状腺刺激ホルモン)が正常域になるように薬の量を調整して下さい。
 出産後の2〜6月の間にはしばしば甲状腺機能異常がみられます。機能異常には色々なタイプがあり、甲状腺ホルモンが増える場合も減る場合もあります。また、一時的な変動だけで自然に治ってしまうことが多いのですが、永続性の機能亢進症や機能低下症を起こす場合もあります。授乳している場合は検査に制約があるため一時的なものか永続的なものか一回の検査では見分けが難しい場合があります。出産後の半年間には何回か甲状腺ホルモン値の測定が勧められます。

甲状腺機能低下症と妊娠

最近、外国から母体の甲状腺機能低下症は軽度であっても後々子供の知能の発育に影響するという論文が出ました。これが日本でも当てはまるかどうか判りませんが、妊娠中は母体の甲状腺機能を正常にコントロールしておくべきです。母体血中のTSHが正常になる量の甲状腺ホルモン剤(レボサイロキシン、チラージンS)の内服は胎児に悪影響を与えません。妊娠週数が進むと薬の必要量が増えますので定期的に検査をして薬の量を調整することが必要です。なお、甲状腺ホルモン剤は授乳中にも内服できます。

新生児の甲状腺機能低下症

甲状腺ホルモンは子供の成長、特に神経や骨の発育に不可欠のホルモンです。日本ではすべての新生児について甲状腺機能低下症をスクリーニングしています。新生児の甲状腺機能低下症が診断された場合はなるべく早く甲状腺ホルモン剤の内服を始めます。適切に治療すれば子供の成長に悪影響を残しません。