内分泌疾患専門病院
甲状腺・副甲状腺疾患、糖尿病などの生活習慣病

慢性甲状腺炎(橋本病)について

慢性甲状腺炎とは?

慢性甲状腺炎とは名前のとおり甲状腺に慢性の炎症があり、そのために甲状腺が腫れたり甲状腺機能に異常がおこることがある疾患です。橋本策博士によって発見されたので橋本病ともいわれます。自己免疫によっておこると考えられますが発症の原因については判っていないことも多くあります。女性に多い病気で成人女性20〜30人にひとり程度の頻度でみられます。男性では女性に比べて約20分の1程度の人にしか発症しません。無症状のことが多いので自分では気づかないことがよくあります。実際に病院を受診する人は一部の人に限られていると思われます。

甲状腺の腫れについて

正常の甲状腺の重さはおよそ10〜15グラム程度です。慢性甲状腺炎では甲状腺全体が均一に大きくなる(びまん性甲状腺腫といいます)ことが多いのですが、腫れの程度は人によって様々で中には甲状腺が萎縮して小さくなってしまう場合もあります。当病院を受診した人について調べてみると、54%の人では20グラム未満(触診でやっとわかる大きさ以下)、25%の人では30グラム未満(注意深く見るとわかる大きさ)、50グラム以上(腫れた甲状腺が明らかにみえる大きさ)の人は約10%でした。当病院を受診していない人には大きな甲状腺の腫れは少ないと推測されますので、大半の人は自分では気づかない程度の軽度の腫れにとどまることになります。

甲状腺ホルモンの異常

当病院を受診した慢性甲状腺炎の人の53%では甲状腺機能(甲状腺ホルモンのバランス)は正常に保たれていました。28%の人は炎症でホルモンを作る細胞が減るために甲状腺機能低下症を示していました。13%の人は潜在的甲状腺機能低下症(ごく軽い機能低下症)でした。残りの約6%の人では血液中の甲状腺ホルモンが増加した状態(甲状腺中毒症)でした。慢性甲状腺炎で血液中の甲状腺ホルモンが増えるのは一時的な変化でほとんど自然に治ります。このように病院を受診した人の半数近くではなんらかの甲状腺機能異常がみられましたが、病院を受診していない人の多くは甲状腺機能正常であろうと推測されます。

甲状腺機能低下症の症状としては次のような症状があります。寒がりになる、便秘がちになる、顔がむくむ、体重が増える、何となくだるい、眠い、脈拍が遅くなる、皮膚が乾燥する、生理が多くなるなどです。

診断ための検査

触診や超音波検査でびまん性甲状腺腫を確認します。血液検査ではTGHA, MCHAといわれる検査で甲状腺に対する自己抗体が陽性であることを確認します。ただし、これらの検査の陽性率はそれぞれ45〜70%、70〜95%ですので陰性でも慢性甲状腺炎の可能性はあります。陰性の場合はもっと鋭敏な方法で確認することができます。甲状腺に針をさして細胞を採取し炎症所見を顕微鏡で確認することもあります。他に原因の見あたらない甲状腺ホルモンの異常があればたいていは慢性甲状腺炎によるものです。

治療が必要な場合

慢性甲状腺炎の大半の人では甲状腺の腫れが小さく甲状腺機能も正常なので治療の必要はありません。永続性の甲状腺機能低下症があれば足りない甲状腺ホルモンを補うために薬(チラージンS錠)を毎日内服します。一時的な甲状腺中毒症、機能低下症の場合は症状に応じて薬を使うこともあります。また、甲状腺の腫れが大きい場合も薬(チラージンS錠)を内服することで腫れを小さくすることが期待できます。甲状腺がひどく大きくて圧迫症状がある場合は手術によって腫れた甲状腺を切除する場合もあります。

慢性甲状腺炎の経過

大半の慢性甲状腺炎では長期間に渡って何も変化しません。ただし、一部には次第に腫れが大きくなる場合や甲状腺機能異常を起こすことがあります。また、次に述べるような経過をとることがあります。

慢性甲状腺炎にみられる特殊な病態

  • 無痛性甲状腺炎
    一時的に起こる甲状腺中毒症です。症状はバセドウ病と似ていますがバセドウ病と違うところは1〜2ヶ月で自然に治ってしまうことです。従ってバセドウ病の治療薬を内服してはいけません。自然に治る途中で一時的に機能低下症を示しますが、結局は正常に回復することが普通です。
  • 出産後甲状腺機能異常症
    慢性甲状腺炎の人では出産直後の半年間は甲状腺機能がとても不安定です。この時期にいろんな種類の甲状腺機能異常がみられますが大部分は一時的なものです。慢性甲状腺炎と診断されている場合は出産後2〜3月目に甲状腺の検査を必ず受けて下さい。
  • ヨードの過剰摂取による甲状腺機能低下症
    ヨードは甲状腺ホルモンの原料ですが過剰に摂りすぎると甲状腺の働きを妨げることがあります。昆布、根昆布、わかめなどはヨードを多く含みますので、これらを習慣的に摂取すれば甲状腺機能が低下して甲状腺が腫れることがあります。また、すでに腫れている場合には腫れが大きくなります。このような場合はヨードの過剰摂取を止めれば速やかに回復します。
  • 慢性甲状腺炎急性増悪
    慢性の甲状腺の炎症が急に強くなったために甲状腺の痛みや発熱をきたすことが稀にあります。ステロイド系の消炎鎮痛剤で治療します。炎症が強くおこった後は急速に甲状腺機能低下症になってしまいます。また薬の治療で症状が抑えきれない場合は手術によって治療します。
  • 悪性リンパ腫
    慢性甲状腺炎に悪性リンパ腫というリンパ球の腫瘍が続発することがごくまれにあります。ただし悪性リンパ腫は稀な腫瘍で甲状腺の悪性腫瘍のわずか2%程度しかありません。超音波検査で偶然発見されることもあります。甲状腺の腫れが急速に大きくなって気づくこともありますので、このような時はすぐ病院を受診して下さい。

普段の生活上の注意

甲状腺の機能異常がなければ生活上の制約はありません。ただし日本人は海藻を食べる習慣がありヨード摂取が多めなので、海藻特に昆布を摂りすぎないように注意する方が良いでしょう。定期的な検診を勧められた人はきちんと検診を受けて下さい。