内分泌疾患専門病院
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バセドウ病眼症について

バセドウ病に伴う症状に、眼球突出などの眼の症状があります。動悸、多汗、体重減少などの症状は甲状腺ホルモンの正常化に伴い消失しますが、眼症状は必ずしも甲状腺機能と平行しません。すなわち、甲状腺ホルモンを下げる薬や甲状腺の手術だけでは眼症状は良くならず、また甲状腺機能が正常になった後に眼症状が出る場合もあります。甲状腺の明らかな腫れや甲状腺機能亢進症がなく眼症状だけがみられるバセドウ病さえあります。

眼の変化は外見上めだちますし視機能の低下は生活の質を著しく悪くしますから、バセドウ病患者さんには眼のことはとても心配なことです。しかし実際には眼に対する特別な治療を必要とする人はバセドウ病患者さん全体の約3〜5 %程度と推測されます。眼症状がある人はバセドウ病眼症について経験のある内分泌専門医、内科医、眼科医の診察を早めに受けるべきです。

野口病院では毎年約40人のバセドウ病眼症の患者さんが入院しています。野口病院に眼科はありませんが、近隣の眼科医と連携して治療にあたっています。

眼の構造とバセドウ病眼症

眼球の表面は角膜、結膜、眼瞼(まぶた)で被われており眼瞼をつり上げる筋肉(眼瞼挙筋)があります。眼球の後ろには脂肪組織、眼球を動かすための小さい筋肉(外眼筋)、視神経があります。バセドウ病になぜ眼の変化が起こるのかは未だよく判っていませんが、初期に起こる眼の変化は 

  1. 眼瞼挙筋のけいれんによって上眼瞼が下がりにくくなる 
  2. 外眼筋が炎症のために腫れる 
  3. 脂肪組織が増殖する 

などです。

このような一次的な変化に続いて次のような変化を生じます。すなわち眼瞼の腫れ、眼球突出、結膜のむくみや充血、流涙が見られるようになります。さらに眼球突出のために眼を閉じることが困難になれば角膜潰瘍ができることもあります。外眼筋の炎症のために左右の眼が協調して動かなくなると複視(ものが二重にみえる)、外眼筋が視神経を圧迫すると視力低下を起こします。このような症状の出方には個人差があり、一度にすべての症状が出るわけではありません。初期の段階に治療を始めることができれば、より効果的と思われます。

眼症状の評価

視力、眼圧、眼球突出度の測定、眼球の動きを調べる検査の他、CTやMRIという断層撮影で眼球の後ろの状態を調べます。CTでは外眼筋の腫れ具合や眼球突出度を短時間で正確に評価することができます。MRIを使えば外眼筋の腫れ具合だけでなく、外眼筋の炎症が新しく活動性のものかどうかがよく判ります。このような検査で治療前の状態の把握や治療効果の判定をします。

バセドウ病眼症の治療

外眼筋の炎症が新しい活動性のものであれば、まず炎症をはやく鎮めるための治療を行います。通常は眼球の後ろに放射線をあてる球後照射を2週間行い、同時にステロイド系の炎症を抑える薬を点滴で投与します。点滴は1日1回で3日連続、その後は内服のステロイド剤に切り替えますが、病状に応じてこのサイクルを数回繰り返します。従って初回治療のための入院期間は2〜4週間となります。外眼筋の炎症がすでに鎮まっている場合にはこのような治療は無効です。炎症が鎮まっているにも関わらず複視や視力低下があったり、眼球突出や閉眼困難による障害がある場合は眼科手術を考慮します。将来の眼科手術の必要性が前もって予測される場合も、活動性の炎症があれば放射線とステロイドで炎症を抑えてから手術をするのが原則です。

治療に伴う副作用

球後照射に伴う副作用の心配はまずありません。ただし糖尿病による網膜の病気がある方はこの治療を受けることができません。ステロイドにはいくつかの副作用が知られていますので、治療前治療中に必要な検査を行いながら投与します。主な副作用は以下のとおりです。

  1. 糖尿病
    ステロイドによって血糖値が高くなる場合があります。もともと糖尿病がある方では血糖値は必ず悪くなります。治療前治療中には時々血糖を測定します。必要に応じてインスリンなどの薬を使って血糖を下げることがあります。
  2. 胃十二指腸潰瘍  
    未治療の潰瘍がある場合はステロイドは使えません。治療の前に胃内視鏡検査を行います。潰瘍がなくても予防的に胃薬を内服します。
  3. 感染症  
    ステロイドによって感染に対する抵抗力が落ちます。治療の前に胸部レントゲンで結核などの所見がないことを確認します。化膿した傷や水虫などがあれば知らせて下さい。
  4. 精神症状  
    ステロイド治療中は不眠がちになりますので眠る前に軽い睡眠剤を内服します。日中もイライラして気分が落ちつかない、細かいことに強い不安を感じるようになることもあります。
  5. 眼圧上昇   
    治療中に眼圧が高くなる場合があります。定期的に眼圧を測定します。
  6. 骨粗鬆症と大腿骨頭壊死
    ステロイドは骨粗鬆症を促進させます。骨塩定量検査を行い骨粗鬆症の治療薬を併用します。ステロイド治療中ごく稀に大腿骨頭壊死を生じることがあります。

私たちの経験では約13 %の人に上記のいずれかの副作用が見られました。予防可能なことは予防し、早期発見に務めながらこの治療を行っています。その他の副作用として体重増加、満月様顔貌、にきび、むくみ、皮膚線条を生じることがあります。

その他の治療

眼球を保護するためのシールや点眼薬、眼瞼挙筋のけいれんを和らげるための点眼薬、眼圧を調節する点眼薬などを使うことがあります。喫煙は眼症状を悪化させる可能性がありますので禁煙します。薬物治療や手術によって甲状腺機能を正常にコントロールしておくことも重要です。

眼科手術

眼球の後ろの骨を一部除いて眼窩内圧を下げる手術や眼球後部の脂肪組織を一部切除する手術は高度の眼球突出やステロイドで視神経の圧迫が解除できない時に有効です。外眼筋周囲の癒着や瘢痕を切除したり筋肉の位置や長さを調節する手術は複視の改善に有効です。いずれも専門的な技術を要しますので、眼科手術が必要な場合は専門の眼科医を紹介致します。

バセドウ病眼症の経過

治療により外眼筋の炎症が一旦おさまっても経過中にまた再燃することが時にあります。再燃が軽度の場合は自然におさまることもありますが、病状によっては再入院していただき球後照射とステロイド治療を繰り返します。このように治療経過には波があって、いいときも悪くなるときもあります。しかし年単位で経過を見ますと治療を受けた人の約90 %は数年後には日常生活になんら支障なく暮らしているようです。約30 %の患者さんには再入院または眼科手術が必要ですが、最終的には良くなることが多いようです。性急にならずに年の単位で気長に治療に取り組んで下さい。

緊急に治療を要するバセドウ病眼症

外眼筋の強い腫れのために視神経が圧迫されて視力が低下することがあります。このような時は緊急の治療を要します。治療が遅れると視力が充分に回復しない可能性があります。眼球突出が高度で眼をほとんど閉じることができない場合、角膜損傷などの危険が高くやはり早期の治療が必要です。