内分泌疾患専門病院
甲状腺・副甲状腺疾患、糖尿病などの生活習慣病 Facebookページへ Twitterへ

第1章 糖尿病とは

血糖値とインスリン 

 血糖値とは血液中のブドウ糖の濃度のことで、食後には一時的に高くなりますが健康な人では一定の範囲内に保たれるようになっています。ブドウ糖はからだを作る細胞のエネルギーの基になるもので、空腹時の血液100ccの中には約100mg(100mg/dl)のブドウ糖が含まれています。膵臓のランゲルハンス島で作られるインスリンというホルモンが、細胞が血液中のブドウ糖をエネルギー源としてうまく使えるよう手助けをしています。インスリンが充分働いて細胞がブドウ糖をうまく取り込めれば良いのですが、インスリンの働きが悪いと血液中にブドウ糖があふれて血糖値が高くなる(このことを高血糖といいます)のです。血糖が高いということは細胞にとってはエネルギー源が不足していることを意味します。

 糖尿病とはインスリンの作用不足のために高血糖が慢性に続き、そのために全身に種々の悪影響を及ぼしてしまう疾患です。

1型糖尿病と2型糖尿病

 糖尿病にはいくつかのタイプ(型)があります。日本人の糖尿病の90%以上を占めるのが2型糖尿病です。2型糖尿病は糖尿病になりやすい遺伝的な素因に加えて、食べ過ぎ、運動不足、肥満などの生活習慣の歪みが原因で起こると考えられています。これらが原因でインスリンの働きが徐々に悪くなり血糖値が高くなるのです。

 そもそも膵臓がどれだけのインスリンを作れるかは生まれ持った素因により人によって異なります。また年齢によっても膵臓のインスリンを作る能力は低下してきます。たくさんのブドウ糖を処理するためにはたくさんのインスリンが必要なのですが、体質的に充分な量のインスリンを作れない人が食べ過ぎると、ブドウ糖に見合う量のインスリンが作れないために血糖値が高くなります。

 また、食べ過ぎの結果肥満するとさらにインスリンの働きが悪くなることが判っています。運動不足もインスリンの働きを悪くします。このようにインスリンがあるのにその働きが悪いことをインスリン抵抗性といいます。2型糖尿病ではインスリン抵抗性とインスリン分泌不足の両者があいまって徐々に血糖値が高くなっていきます。初期には症状もなく数年の経過で徐々に進行するので、健診などで偶然に診断される人が多いのです。

 1型糖尿病は日本人の糖尿病の5%前後と少ないものです。1型糖尿病とは膵臓のインスリンを作る細胞が自己免疫などの機序によって破壊されてしまい、インスリンがほとんど作られなくなるためにおこる糖尿病です。2型糖尿病に比べて比較的急速に発症しますが、発症のごく初期にはインスリンが全く作られないわけではありません。中には3-5年くらいかけてゆっくりとインスリンが出ない状態になるタイプの1型糖尿病もあります。

 2型糖尿病に比べると若い人に多いのですが中年以降にも発症します。1型糖尿病ではインスリン注射でのコントロールが不可欠である点が2型糖尿病との相違点です。自分の膵臓から出るインスリンがなく、注射で補うインスリンで血糖をコントロールするので血糖値が不安定になりやすく、特に風邪や発熱などストレスがかかる時(シックデイ)に血糖が容易に高くなる傾向があります。あまり血糖が高くなるとケトアシドーシスという危険な状態に至ることもありますので、決められたインスリンをきちんと続けなければなりません。また、血糖が不安定なため低血糖にも充分な注意が必要です。このような理由で1型糖尿病では血糖自己測定やインスリンの頻回注射が必要になります。

 1型糖尿病と2型糖尿病の区別は発症の経過、血糖値、インスリン分泌予備能、膵臓に対する自己抗体(GAD抗体など)の有無などを目安にしてなされます。

1型糖尿病と2型糖尿病との比較

  1型糖尿病 2型糖尿病
発症年齢 若年に多い 中年以降に多い
体格 やせが多い 肥満が多い
家族歴 少ない 多い
発症 比較的急に発症 徐々に発症
治療 インスリン注射が必要 生活習慣の是正が必要

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2型糖尿病の経過

2型糖尿病の予備軍

 2型糖尿病は数年かかって徐々に発症しますが、糖尿病になる前の数年間は予備軍の時期と考えられます。厚生労働省の平成28年国民健康・栄養調査によれば糖尿病が強く疑われる人は約1000万人と推計されています。また糖尿病の可能性を否定できない人(予備軍)も約1000万人と推計されています。

 将来2型糖尿病になりやすい人とは、血のつながった人に糖尿病がある、肥満がある、不規則な食生活や運動不足など生活習慣が不健康である、女性では妊娠糖尿病の経験がある、また巨大児を出産したことがある、これらのいずれかにあてはまる人です。これらの人には定期的に血糖検査を受けることが勧められます。75g経口糖負荷試験(OGTT)を行いブドウ糖負荷前後の血糖値やインスリンの濃度を調べることによって、近い将来2型糖尿病を発症する危険性を知ることができます。危険性が高いと判断された場合は生活習慣の見直しや減量によって糖尿病発症を積極的に予防する必要があります。糖尿病と診断される前に自分が糖尿病になりやすい予備軍かどうかを知って先手をうつのが得策です。糖尿病に対する食事療法や運動療法、肥満や血圧、脂質の管理などは糖尿病の予防にも役立つので参考にしてください。

2型糖尿病の自然経過

 糖尿病の初期には症状がないことが多いのですが放っておいてはいけません。からだの中の細胞はエネルギー不足に陥っているのです。そして、何もしないでいると血糖値はさらに高くなり、口渇、多飲、多尿、体重減少、倦怠感などの症状が出てきます。このような症状がある時には血糖値はかなり高くなっています。血糖が高いままで何年も経過すると眼の異常、腎臓の異常、神経の異常、動脈硬化など糖尿病の合併症が起こります。これらの合併症は一度起こるとやっかいです。予防しなくてはなりません。予防するために必要なことは糖尿病を放っておかないことです。正しい方法で血糖値を下げておけば合併症や糖尿病の自覚症状を防ぐことができます。

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糖尿病の診断基準

血糖検査

 血液中のブドウ糖の濃度を測定する検査で、糖尿病の診断には最も大切な検査です。血糖検査の結果は朝食をとる前に空腹で採血したか、食後に採血したかによって変わります。早朝空腹時血糖値126mg/dl以上、随時血糖200mg/dl以上が糖尿病型の血糖値とされます。またHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー:採血した日から過去1-2ヶ月前の血糖の平均値を示す)は6.5%以上で糖尿病型とされます。血糖値、HbA1cがともに糖尿病型を示せば糖尿病と診断されます。また血糖値のみ糖尿病型を示し、糖尿病の典型的症状(口渇、多飲、多尿、体重減少など)や糖尿病網膜症がある場合も糖尿病と診断されます。なお、糖尿病がない人の空腹時血糖はおよそ100mg/dl、食後でも160mg/dlを超えることはあまりありません。

75g経口糖負荷試験(OGTT)

 一回の血糖検査で糖尿病と診断するほど血糖が高くはないけれど、糖尿病の疑いがある時には経口ブドウ糖負荷試験をします。一晩絶食にした翌朝75グラム のブドウ糖を含むジュースを飲んで、その前後の血糖値を30分おきに測定します。血糖値の変化が正常型、糖尿病型とその中間にあたる境界型のどれになるか判定します。血糖測定と同時に血液中のインスリン濃度を測定すれば、膵臓で作られるインスリンの量を知ることもできます。風邪や下痢などで体調が悪い時、不規則な食事が続いた後などにこの検査を受けると正確な診断ができないので注意が必要です。

経口ブドウ糖負荷試験の判定区分

  正常型 糖尿病型
負荷前血糖値
2時間後血糖値
110 mg/dl未満
かつ
140 mg/dl未満
126 mg/dl以上
または
200 mg/dl以上

どちらにも合わない場合は境界型とされます。

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